先日、トレタはメドレーさんとトークイベントを開催しました。
 
すでに皆さんご承知のように、トレタは飲食店向けの予約台帳アプリ「トレタ」を提供しています。片やメドレーさんは、スマホでオンライン診療が受けられるアプリ「CLINICS」など、医療ヘルスケア業界を対象とした各種サービスを手掛ける企業。お互いターゲットとしている業界こそ異なりますが、ともに人手やアナログな業務プロセスが色残る伝統業界の課題を、ITの力で解決しようとしている点では、まさに同志といえる存在です。
 toremed
そこで今回、「IT×◯◯業界」の最前線に立つ両社のCTOとトップデザイナー4名が集まり『医療・飲食業界の「当たり前」に挑戦する次世代型プロダクトマインドとは』というテーマのイベントを企画。5月17日に開催しました。
 
果たして両社は、日々どのような課題と向き合い、何を目指して事業に取り組んでいるのでしょうか。このエントリーでは、当日に行われたディスカッションの中から、特に印象的だった話題をピックアップしてお届けします。

会場には現職のエンジニアやデザイナー、プロジェクトマネジャーを中心に、約50名のお客様にご来場いただきました
toremed001

<登壇者肩書き・略歴>
株式会社トレタ
CTO 増井雄一郎(写真中央)
日米でアプリ開発経験や起業経験を持つトレタのCTO。MobiRubyなどのオープンソース活動に加え、イベント講演や執筆活動も精力的にこなす。
 
CDO 上ノ郷谷太一(写真左から2番目)
シックス・アパートやクックパッドのデザイナーとして活躍し、2015年にトレタに入社。現在はCDO(最高デザイン責任者)を務める。
 
株式会社メドレー(写真右)
取締役CTO 平山宗介さん
大手SIer、グリー、リブセンスを経てメドレーの経営に参画。現在、取締役CTOとして同社の技術部門を率いる。
 
デザイナー 前田邦織さん(写真右から2番目)
制作会社、フリーランスのデザイナーを経て、リブセンスでデザイン部長、室長などを歴任。2017年からメドレーで現職。
 
<ディスカッション・テーマ目次>
 ①プロダクト開発を行う上で重視していることは?
 ②開発プロセスってどうしてる?
 ③業界特有のIT化しづらかったことは?
 ④それぞれの業界が抱える特有の課題は?
 
toremed007


「ここにボタンをつけたら1億円」。さてどうする?

〜テーマ①〜プロダクト開発を行う上で重視していることは?

 
最初のお題は、プロダクト開発を行う上で重視していること。ディスカッションの口火を切ったのはメドレーの平山さん。大事なのは「クリエイターが誇りを持って仕事をできるようにすること」そして「職種間の隙間を埋めること」だといいます。
 
「顧客にいわれたことを、ただ実現するだけではいいプロダクトは生み出せません。エンジニアもデザイナーも誇りを持って、プロダクトを自分の手でどうしたいか考えること。そして職種間の相互理解を深めることが、継ぎ目のないプロダクトをつくるためにもっとも大事なことだと考えているので、この2点はとくに重視しています」
 
メドレーのデザイナーである前田さんも平山さん同様、
 
「単純にいわれたもの、求められたものをつくるだけではデザインをしていることになりません。ユーザー、作り手の思いや視点、意見をまとめて、スピーディーにアウトプットすることが大事」だといいます。
 
お二人の話を受け、トレタのCTO増井は、「まず何が問題か、開発に携わる人間が共通認識を持つこと」、そして「課題解決のためにプロダクトをつくっているということを意識する」ことも重要だと続けます。
 
「たとえば、お客さんから『画面にボタンを加えてほしい』という要望が寄せられたとします。やろうと思えば簡単にできますが、それが実現したからといって課題解決につながるとは限りません。『ボタンがほしい』とお客さんがおっしゃった理由を正しく理解しなければ課題の本質がみえないからです。そのために、僕らはお客さんのもとへヒアリングにいきます。トレタは飲食のプロではありませんが課題解決のプロ。トレタをつくった時から、全員で何が本当の問題なのかを探り、全員で共有することを重視してきました」
 
ここで、平山さんから「もし営業担当者から『お客さんのいう通りにボタンをつけたら1億円の売上が見込める』といわれたとしたらどうしますか?」という質問を受け、増井が答えます。
 
「以前、大手チェーンからコーポレートカラーに合わせて、アプリの色使いを変えてくれれば導入するといわれたことがあります。しかし、結果的にそのお話はお断りしました。僕たちが当初から目標としていたのは『飲食店共通の課題を解決すること』。個別の事情があるのはわかりますし、受注がいただけるのはありがたいのですが、カスタマイズにリソースを割かないことは最初から決めていたので、そういう決断をしたんです」
 
それを聞いた平山さんは、「ボードメンバー間で意思決定の思想がちゃんと共有されていることが、強さの秘密なのかも」と、共感していました。
 toremed010

安易に機能追加ができないから、社内で失敗を量産する

〜テーマ②〜開発プロセスってどうしてる?

 
飲食業界と医療業界という違いはあるものの、ともにtoB向けサービス開発している点で共通点が多い両社。開発プロセスに大きな隔たりはあるのでしょうか? まずはトレタでCDO(最高デザイン責任者)を務める上ノ郷谷が答えます。
 
「トレタでは、プロジェクトマネジャーを中心とした、ユーザーとの接点をつくるデザイナーと、開発を担当するエンジニアを配置する体制をとっており、基本的に企画や仕様を考えるのはデザイナーの仕事になっています。その際に大事にしているのは、やはり課題を明確にすること。エンジニア、セールス、カスタマーサポートと意見交換する際にも『何をするか』という『手段』からは話をしないよう気をつけています」
 
一方、メドレーでは、収益を管理する事業部長と、サービスの質を担保するプロダクトマネジャーが同等の権限を持ち、開発計画の進め方についてはプロダクトマネジャーが責任を持って決めるといいます。平山さんはその理由を次のように説明してくれました。
 
「医療業界に限らず、リアルな現場に向けたサービスを開発していると、どうしても『現場ドリブン』『事業部ドリブン』でものごとを決めがちです。うちでは、開発に関して『何をやり』『何をやらないか』は、全体を大局的にみるプロダクトマネジャーの役割にしています。クラウドサービスは汎用的につくる必要があります。『プロダクトドリブン』で開発を進めるため、メドレーでは、収益や利益に責任を持つ事業部長とプロダクトの開発に責任を持つプロダクトマネジャーの両輪で事業を率いる体制を採用しています」
 
前田さんは、事業部長とプロダクトマネジャーによる開発体制は、デザインする意識にも大きな影響を与えているといいます。
 
「前職でもウェブサービスをデザインしていましたが、いまは以前よりも製品としてどれだけ完成度が高いサービスをユーザーに届けられるか、プロダクトデザイン的志向で開発している感覚があります。個人的には、これまでと違った視点でデザインに取り組めて楽しいという思いがありますね」
 
逆にトレタには、強い開発権限を持ったプロダクトマネジャーがいない代わりに、プロダクト別のプロジェクトを率いるプロジェクトマネジャーのもとで、チーム全員でプロダクトを磨いていく体制をとっています。それが可能なのは「機能を作り込む過程で、かなり失敗をしている」からではないかと、上ノ郷谷はみています。
 
「新たな機能追加によって、飲食店側のオペレーションを大きく変えてしまうと、飲食店はもちろん、私たち自身のサポートコストもかさむため、不用意な機能追加はできません。理想的なのは『いつも通り使っているんだけど、前より少しずつ使いやすくなっている』という状態。そのため社内ではリリース前にかなりの失敗を繰り返しています。それが結果的にメンバー間での課題意識の共有につながっていると思います」
 
さらに増井は「飲食店でオペレーションを経験したことがある社員や、お客様にプロトタイプの段階で試用してもらうことで、自分たちが立てた仮説が正しいか、試行錯誤を繰り返しプロダクトの精度を上げている」と話し、次のように話を締めくくります。
 
「導入後のネガティブな反応を抑えるためには、こうしたプロセスは欠かせないもの。どの会社よりも仮説検証を丁寧に行うというのは、トレタの開発プロセスの特徴のひとつといえるかも知れません」
 
toremed003


マクロな問題を解決したいなら、ITだけで解決しようとすべきでない

〜テーマ③〜業界特有のIT化しづらかったことは?

 
飲食業界、医療業界は、いずれもIT化の遅れが指摘されることが多い業界です。サービスを展開するにあたっては、業界特有の壁に直面したこともあったのではないでしょうか。開発にまつわる困難をどのように突破したのか、皆さんに聞いてみました。
 
まず、増井が「ふたつの業界に共通しているのは、サービスを使う人たちがIT慣れしていないこと」と指摘した上で、飲食業界と医療業界との違いについて話しはじめました。
 
「ある飲食チェーン店の方に聞いた話ですが、年間2万人のアルバイトを採用しても2万人辞めてしまうのだそうです。平均在職期間はおよそ6カ月。しかも毎日お店に入る方もいれば、週に1回しか入らない方もいるという状況の中で、トレタのようなサービスを使ってもらおうと思ったら『慣れれば使える』というUIはダメ。慣れる頃には辞めてしまう可能性が高いからです。そういう面で、医療業界と飲食業界には大きな違いがあると思います」
 
この話を聞いていた前田さんから、「逆に、店員さんがずっと使い続けるシナリオが成り立たないのであれば、ダイナミックに機能を追加したり、UIを変えたりするチャンスもあるのでは?」という質問が寄せられました。
 
それに対して増井は、
 
「人材の回転が速い飲食店がある一方で、50代、60代の方が何十年も予約を担当している老舗もあるので、ドラスティックに変えるのはなかなか難しいのが現実です」と語り、両極化する飲食業界の現状を教えてくれました。
 
一方、平山さんは、医療業界の特殊性について次のように説明します。
 
「医療業界では、あらゆる業務プロセスが法律によって定められている点と、診断が下されるまで患者であるユーザー自身がいくら支払うかわからないという点が一般の商習慣とは異なる部分だと思います。こうした細かい要件をクリアしながら、適度に抽象化されたプロトコルをつくることはとても難しいというのが実感です」
 
そのため、優れたプロダクト開発を行う努力と並行して、オンライン診療にまつわる規制を緩和するための活動を多角的に行っているのだそうです。
 
「実はいまのところ、オンライン診療は対面の診療に比べると一部の保険点数がつかないため、医療機関にとっては現時点では金銭的なメリットは大きくありません。これはそもそも、診療報酬ルール自体がオンライン診療を想定していないため、対応できていないからです。それにも関わらず導入してくださる医療機関が増えているのは、患者さんのニーズがあるから。いいプロダクト作りを目指すと同時に、ガバメント・リレーションズや医師会などとの情報交換を通じて、IT化への理解を働きかけています」(平山氏)
 
また前田さんは、こうした業界の特性が困難に思える反面、やりがいにつながっている部分もあるといいます。
 
「単純に一企業に所属してプロダクトをデザインする喜び以上に、社会全体を巻き込んで大きな変革を成し遂げようとしている実感があります。こうした仕事に携われるというのは、デザイナーとしてもやりがいに思います」
 
こうした平山さんや前田さんの話を受け、増井は「すべての問題をITだけで解決しようとしないことが大事ではないか」と言い、トレタの例を挙げました。
 
「トレタはカスタマイズを行わないぶん、セールスやカスタマーサポートチームが連携して、どのようにしたら業務プロセスを効率化できるか、利益を出してもらえるようになるか、お客様に提案することに重きを置いています。技術力でプロダクトの品質を上げることはもちろん大事です。しかしすべての問題をITだけで解決しようとしないという姿勢も同じくらい大事なのではないでしょうか」
 toremed009


切迫した大きな課題を前に、私たちができることとは?

〜テーマ④〜それぞれの業界が抱える特有の課題は?

 
飲食業界は少子化の影響で、徐々に労働の担い手の確保が困難になりつつあるといわれています。また、医療業界も高齢化による医療費の増加など、抜き差しならない大きな課題に直面しているのは皆さんご承知の通りです。そうした状況の中で、彼らにサービスを提供する私たちには何ができるでしょうか?
 
増井も平山さんも、業務効率化によって貢献できることはまだ残されていると考えているようです。
 
「これから国内人口は減る一方です。コンビニや冷凍食品など、飲食業界を脅かすライバルも増え続けています。また若年層の労働人口が減った影響で、すでにアルバイトが雇えず、店長が無休でお店に出なければならなかったり、定休日を増やさないと営業が成り立たなかったりするお店もあると聞きました。こうした状況を改善するために僕らができることは、やはり業務の効率化。人手が少なくてもお店を回せるようなサービスなど、やるべきことは、まだまだたくさんあると思います」(増井)
 
前田さんは、治療だけでなく予防医学に貢献することもひとつの手立てだと語る一方、平山さんは、医療リテラシーの向上とテクノロジーによる効率化が有効だと考えているといいます。
 
「医療費はいまや40兆円を突破し、すぐに50兆円を超えてくるといわれています。その中で私たちがやるべきことは、国民の医療リテラシーの向上と医療業務の効率化です。ネットを通じてわかりやすく正確な医療情報を提供したり、電子カルテから診療点数に落とし込む計算を機械学習に任せたりすることで効率化を実現し、医療従事者が高齢化や高薬価など、医療業界全体が抱えている課題と真摯に向き合えるような状況をつくり出すことが可能だと思います」
 
また上ノ郷谷は、予約時にデポジットを受け取り予約の確実性を高める試みや、発生してしまった無断キャンセルに対してトレタがお見舞い金を支払うという取り組みを紹介した上で、テクノロジーによって、飲食店の存在を脅かす「危険な予約」を検知することも可能になるかも知れないと話します。
 
「予約人数が10人、15人という切りのいい数字だったり、事前のコース予約を渋ったりするお客さんは危ないという傾向がみられます。個人情報の扱いなど、難しい問題をはらんでいますが、テクノロジーを使って問題を解決する余地はまだまだ残されているのではないでしょうか」
 
およそ1時間におよんだトーク・ディスカッションはここまで。最後に来場してくださった皆さんからの質問にお答えする、質疑応答の様子をご紹介します。


<質疑応答>
Q 「お医者様の一声」が多方面からある中で、どうプロダクトの仕様を決めるのか、手段を詳しく!。
 
A プロダクトの思想を維持するために、メドレーの組織には、その依頼なり要望が開発ポリシーに則っているか、冷静に見極められる人間が要所要所に存在します。ありきたりなプロダクトをつくらないためには、民主的に物事を決めるよりも、権限を持った責任者が”独裁的”に決めた方がいい場合もあると思っています(平山さん)
 
Q トレタさんの「プロジェクト」 ってどれくらいの機能の単位で、どれくらいの期間、チームでやるんだろう。
 
「将来的には、プロジェクト単位でチームをつくり解散していくような体制にできたらいいと思っています。いまは、予約顧客台帳、Web予約チームと、割と大き目なプロダクト単位になっています。開発サイクルは2週間単位で、チーム編成は、基本的にプロジェクトマネジャーを中心としてデザイナーがひとりと、エンジニアがフロントとサーバサイドに、それぞれひとりづつつくのが標準的な組織イメージです。ただ、こうした体制になったのは今年から。組織は有機的なもので、状況の変化に対応したり課題を解決したりするために変えるものだと思っています」(上ノ郷谷)
 
「トレタの組織をどうするべきかについては、開発プロセスや意思決定のあり方を含め、四半期に一度はエンジニア全員が集まって話し合って決めています。ですから四半期ごとにドラスティックに変わることも少なくありません。『前回の反省踏まえて今回はこうしよう』『この部分は残そう』という話し合いはマメにやっています」(増井)
 
Q CTOがやるべき仕事、やるべきではない仕事とは?
 
「人が足りなければ採用しなければなりませんし、プロダクトの開発が上手くいかなければ方向性を示すのがCTOの役割。自分では『何でも屋』だと思っています。個人的には、テクノロジーをよく知る人がもっと経営に参加しなければ、日本のITはよくならないと思っているので、皆さんも例えばファイナンスなど技術以外のことも勉強して、経営に対して意見できるようになってほしいですね」(平山)
 
「僕自身はマネージメントが苦手だという自覚があるので、トレタをはじめた頃から採るならマネジメントしなくていいエンジニアを採ると決めて、開発にも主体的に関わってきました。しかし、最近昨年から自分の仕事を見直し、いまはどちらかというと事業提携や海外戦略など、経営に技術視点を持ち込むことが仕事の中心になっています。今後もスケジュールに左右されない機能についてはコードを書いたり、技術広報として外に出て話したり、共同創業者のひとりとして別の角度からトレタをよくする提案したりする取り組みも引き続きやっていくつもりです」(増井)
 
Q 取り組むべき課題の優先順位をどうやって決めてるか知りたいです。
 
「ベンチャーでは、少ないリソースで飛行機をちゃんと離陸させることが大事。まずは『これをやりきるんだ』という強い意思を持って組織を飛び立たせるべきで、KPIを細分化し、課題を潰していくのはその後でも遅くないと思っています。ゼロイチ(0→1)フェーズは「突破力」、イチジュウ(1→10)フェーズは「分析力」によって、優先順位を決めるべきだと思います。極論をいえば、個人のモチベーションは会社の業績が上がればついてくる面もあります。時に誰かが悪者になってでも、推進していかなければならないこともあるのではないでしょうか」(平山)
 
「一番まずいのは、十分理解していないのに、納得したような気分になってしまうことです。ですから課題を明確にし、全員がやるべきことをわかった状態で優先順位を決めるようにしています。ただ、以前なら飲食店の経営経験がある社長の知見をベースに判断できたことが、いまや社員も80名近くになり、個人経営店や大型チェーン店など、お客さんの業態も多様化。検討すべき課題や視点が増えています。これらの課題とうまく折り合いをつけていくのは簡単ではありません。しかしこればかりは答えはないもの。限られたリソースの中で試行錯誤するしかないと思っています」(増井)
 
対談終了後は参加者のみなさんと懇親会を開催。両社のサービスや開発などについてお話しました。
今後もトレタでは対談イベントやトークショーなど積極的に行ってまいります。
ぜひこちらの記事を読んでいるみなさんもオフィスに遊びにきてください。お待ちしております。

 
 toremed006

トレタでは、×ITで飲食店の方々の課題解決に取り組む人材を募集しています。
こちらもぜひ、ご覧ください。
https://toreta.in/jp/recruit